寄稿者:橋本繁美
大島紬のあの黒はどうやって出すのだろう。艶やかなカラスの羽のような濡羽色はどのような工程で生まれるのか。大島紬に出会ったとき、不思議に思った。黒く艷やかな女性の髪の毛を形容する言葉として用いられてきた濡羽色が印象的だった。そして、多くの人の手技で、さまざまな工程を知った。気が遠くなるような単調でありながら、繊細きわまりない、きつい作業を何度も繰り返し生まれた大島紬の魅力の数々。気がつけば、すっかりファンになっていた。
大島紬が美しく高価なものという概念は、全工程を見て知っても簡単には変わらないだろう。だが、人の手間賃に計算すれば、少しぐらいはわかるような気がする。かつて、大島紬の魅力を知ってもらおうと、反物の切り売りを考えられ、実行されたことがある。奄美織物株式会社のアンテナショップを名瀬に設け、テスト販売されていたことを思い出す。着物だけでなく、履物、かばん、小物関係など。さらに、ジャケットやドレスといった洋装への展開、メンズものと、大島紬を使ったアイテムが次々と生まれていった。あくまでも「大島紬の魅力」をセンスよく身近に感じさせることが狙いだったと思う。価格設定もできる限りおさえ、一人でも多く大島紬のファンを増やしたいという思いが先行していた。ブランド ” のの” のはじまりである。(のの=奄美大島のことばで布の意)