寄稿84 糊張りの体験

奄美探訪記と大島紬寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

かなり前に、大島紬の工程のひとつ「糊張り」を見せてもらったことがある。およそ50※1メートルに張り巡らせた糸に糊をつける作業だ。指の間を糸を通すことで4~5本※2の糸に糊づけができる。体験させてもらったが、素人にはなかなか難しかった。天候も大きく影響するため、炎天下での厳しい作業となる。最近では、この工程の職人も数少なくなったと聞く。

なぜ「糊張り」が必要かといえば、大島紬に使用する絹糸は、絣図案に基づいて織りあがりの風合いや密度(マルキ数)などを考慮して、糸の種類・太さ・必要量などが決められる「糸設計」というのがある。マルキとは、柄を織り出すために染め上げた絣糸と、絣のない地糸(無地の糸)の割合をさす言葉らしい。

『かごしまの大島紬 今昔』(本場大島紬織物協同組合創立100周年記念誌 出水沢 藍子著)によると、九マルキ(正確には九・六マルキ)は経糸の絣糸が七六八本(実際は七七〇~八一〇本)、七マルキ(七・二マルキ)は五七六本(五八二~六一〇本)、五マルキ(五・八マルキ)は四六四本(四六六~四九〇本)と記されている※3。そこで使われるためには「整経(せいけい)といった工程が必要であり、長さなどバラバラな絹糸が絣加工でもつれたり、順番を間違えたりしないように、経糸の長さと本数を整えることで、一定の長さ、必要な本数に揃える作業だ。一本一本の糸を交互に交差させる配列「綾取り」「アゼとり」と呼ぶそうだ。整経した糸は、次の工程の絣締(かすりしめ)をする前に「糊張り」が必要となる。専門的なことはわからないが、大島紬の工程には欠かせない手作業のひとつである。

※1:長さはその時々による ※2:ここでの1本は約10~20本の糸がまとまった状態 ※3一元絣に限る

のり張り
参考:糊張りの様子