寄稿者:橋本繁美
三線(さんしん)や指笛とともに唄われる島唄。その特徴は何といっても哀感漂う高音の裏声である。神谷裕司著『奄美、もっと知りたい』(南方新社)から引用させてもらうと、
①歌詞の発生は、宗教と関係しており、裏声は奄美のシャーマンの叫び声など神事や聖なる行為と深く関係している。②奄美ではオナリ(姉妹)神信仰が強く、霊的にも文化的にも女性の地位が高く、生まれつき高音のの声に近づけたい、という男性の願望があった。③険しい山あいに住む島人の暮らしの中で、裏声が伝達手段として利用された。④薩摩の支配に苦吟してきた奄美の人々の叫びは、ストレートに表現できず、屈折して裏声をつくった。⑤音質の効果と音域を広げる目的から、工夫された。
どれも説得力のある論理である。
奄美の島唄の特徴のもう一つは「歌掛け」=「唄遊(うたあし)び」である。大方の歌は八八八六調(琉歌調)を代表する短詩形の文句をうたうようになっており、いわば複数の人たちによる、それら文句のやりとりが歌掛けにほかならないのである。(……略)
専門的なことはわからないが、奄美の島唄は、奄美の人々にとって共有財産だけに、いつまでも唄い継がれていくことを切に願う。(完)
*唄遊びは、万葉の時代、男女が互いに唄を掛け合って遊んだ「歌垣」と呼ばれる行事を現代に伝えたもの。ここ十数年で急速に減ってきたといわれている。