寄稿者:橋本繁美
奄美大島に行くたびに思うのが、透き通った海の美しさだ。それは飛行機が奄美空港に近づいただけでわかる。着陸態勢に入る空の上から見える珊瑚礁の明るい海に、波が島に寄せては返し、やさしく砕ける波の白さがきれいに並んでは消える。まるで訪問者を歓迎するかのようで、実に心地よい挨拶のように見える。なんだか、こちらまでハッピーな気分にしてくれる。
もちろん、島に降りたら、その素晴らしさはすぐわかる。奄美大島の移動手段はバスかクルマということになる。ありがたいことに、あの頃はいつも枡儀さんの社用車、白いワンボックスカーが僕たちの足だった。普段は空港近くのガソリンスタンドに預かってもらっているという。乗り込んで笠利をめざす。抜けるような青い空、まっすぐにのびる海岸、珊瑚の破片でできたまぶしいほどの白い砂浜に、おだやかに打ち寄せる波。思わず窓を開けると、南国特有の香り、やさしい風。実に気持ちいい。いつ訪れても陽気な夏を感じる。といっても、奄美にも冬はある。バックミラーに映る景色が次々と現れては小さくなってゆく。かつて、作家のC・W・ニコルさんは、「北に流氷を見、南に珊瑚礁を見る国が、どこにあるのだろうか」と、豊かな自然が息づく日本に恋した。確かに、奄美のようにエメラルドグリーンの海と珊瑚礁をもつ国で、北国では流氷を見ることができるとは、誠に幸せなことに違いない。*当時の白いワンボックスカーは役目を終えて現在はない。
クルマは県道を走る。笠利に向かう沿道には、緑の波がみごとなサトウキビ畑がひろがる。少し脇道にそれるだけで、よく伸びたサトウキビが、ざわわ、ざわわと風にそよぐ緑の草原。この光景を目にすると南国を感じ、森山良子さんの歌「♪さとうきび畑」を口ずさんでしまう。舞台は沖縄ではないのに、ここ奄美でもサトウキビの栽培をあちこちで見かける。収穫期は1月から4月で、刈り取りが済むと赤土の台地が広がり、再び植え付ける。おなじみの黒糖焼酎や黒砂糖などの特産物となる。聞いたところでは、特有の赤土のため、コメ栽培は難しいそうだ。