寄稿38 お盆

京の旬感寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

お盆は亡くなったご先祖さまの御霊が帰ってくる日。京都では、8月の13日から始まり16日の五山の送り火に終る盂蘭盆(うらぼん)には、各家で先祖の霊を祀る報恩供養がおこなわれる。盆の入りの13日頃「迎え盆」といい、家の前に迎え火を焚いてご先祖さまの御霊を迎える。その前の8月7日から10日までの4日間、六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)では「六道まいり」あるいは「お精霊(しょうらい)さん迎え」として、精霊(御霊)を迎えるため、多くの参拝客が訪れる。家族で供養した後は、ご先祖さんが無事にあの世に帰れるように送り火を焚く「送り盆」。お盆は日本古来から続くたいせつな行事だけに、これからもご先祖さまを敬う心を忘れずに、親から子へと受け継いでいきたいと思う、夏の風物詩だ。

幽霊(ゆうれい)飴(あめ)(六道の辻・六道珍皇寺)

六道珍皇寺の名がでてきたところで、落語「幽霊雨」を一席。夜中に、六道珍皇寺門前にある飴屋の戸を叩く音がする。店の者が出てみると、青白い顔の女。「夜分遅うにすみませんが、飴をひとつ売っていただけませんか」と一文銭を差し出す。飴を渡すと大事そうに飴を持って、音もなく店から出て行った。女は六日間続けて飴を買いに来た。そして七日目「今日はおあしがございませんが…」と言う。飴屋はただで飴を与え、後をつけさせたところ、女は高台寺の墓の前で姿を消した。寺に顛末を話してそこを掘ってみると、お腹に子どもを宿したまま死んだ若い女の墓。幸いにも飴のおかげか、土中で生まれた赤子はまだ生きていた。子どものない飴屋の主人夫婦がこの子を引き取り、大事に育てた。後にこの子は立派に成長し、飴屋夫婦に孝行を尽くし、高台寺の坊さんになって飴で育ててくれた母親の供養をしたという。それもそのはずで、「こおだいじ(高台寺・子を大事)」。あとがよろしいようで。

写真提供:三宅徹(写真家)