寄稿30 きょら島、奄美大島。

奄美探訪記と大島紬寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

海も、空も、きれいだ。目に映る美しい自然は、ときには人間を翻弄する厳しいものでもある。それだけに島の人たちは誇りをこめて「きょら島」(清らかな、美しい島)と呼ぶ。

急に、何をいうのかと思われるかもしれないが、先日、国民的映画「男はつらいよ」の最終作「寅次郎紅の花」を久しぶりに観た。ご存知、舞台は砂浜がきわめて美しい加計呂麻島。甥の満男(吉岡秀隆さん)は、だいじな泉(後藤久美子さん)が結婚してしまうという知らせに自分を止めることができず、結婚式をぶち壊しにしてしまう。失意の満男は奄美まで旅を続け、そこで、島に住むひとりの女性リリー(浅丘ルリ子さん)と知り合う。彼女の家を訪れると、そこに伯父の寅次郎(渥美清さん)がいた。彼はこの奄美でリリーと生活しているところから物語は展開していく。何度、観ても飽きがこない名作だ。

そういえば、はじめて加計呂麻島へ、奄美海上タクシーというものに乗せてもらって着いたとき、ここ徳浜海岸が「男はつらいよ」のロケ地と教えてもらったことを想い出す。美しい砂浜、見上げれば青空、大きなガジュマルや、デイゴの並木、奄美大島そのものが素晴らしいが、さらに極上ともいえるイメージの加計呂麻島。あの頃は、海に入れば美しいサンゴで有名なところだった。

南日本新聞(6月4日)で「夜の海に漂う『命の粒』サンゴ産卵期迎える 奄美・加計呂麻島」という見出しを発見。記事を引用させてもらうと、

奄美大島の海域でサンゴが産卵期を迎えた。瀬戸内町加計呂麻島の実久海岸沖では1日夜、サンゴの群落が卵と精子が入った「バンドル」と呼ばれるピンク色の粒を一斉に放出し、海中には幻想的な光景が広がったと奄美海洋生物研究会の興克樹会長(50)=奄美市名瀬=が撮影した。(中略)一帯のサンゴは大量発生したオニヒトデの食害で2002年にほぼ全滅したが、現在は食害以前の8割まで回復した。興さんは「多くのサンゴの卵が、回復が遅れている周辺海域でも定着し、成長してほしい」

南日本新聞 夜の海に漂う「命の粒」 サンゴ産卵期迎える 奄美・加計呂麻島

とサンゴの写真ともに紹介されていた。読んでいるだけでうれしいニュースだ。ひと足先に、梅雨があければ夏本番の加計呂麻島。コロナが早く収束して、多くの人に来てほしいと呼んでいるような気がする。

(6/24追記)加計呂麻島へ行こう

映画好きなら、寅さんの足跡がいっぱいある島。ダイバーなら、日本で最も美しい海がある島。文学愛好家なら、島尾敏雄による島尾文学発祥の島。他にも、魅力をいっぱい秘めたところだけに、ぜひ訪れてほしい。青空に引かれたジェット機の白線、ゆらゆらと水のゆらぎ、まるで時がとまったように感じたのは、私だけではないはず。そうそう、デイゴ並木もよかったな。歩く、歩いて、自然の一つとなる。そして、島は自由自在に表情を変えながら、熱烈に惹きつけていく。これがたまらない。