寄稿120 八坂塔への参道 / 京を歩く

京を歩く寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

うららかな春の陽気に誘われて、東山の大和大路通へ。元新道小学校の横にあった「宮川町歌舞練場」は建て替えのため、姿を消していた。そこは毎年、祇園祭の日和神楽でお世話になっているだけに2025年夏頃の完成が待ち遠しい。NTT都市開発によると「花街文化の発展と新たな賑わいづくりを通して、地域の更なる活性化と魅力ある街づくりに貢献する施設」らしい。

そこから建仁寺の塔頭を見ながら八坂通を東へ。東大路通を渡って、ゆるやかな石畳の坂道を上がって行くと八坂庚申堂(金剛寺)、その坂の上に八坂塔(霊応山法観寺)が建つ。通り沿いには昔からの店が建ち並び、日常風景が溶け込んだ京都らしい景色がひろがる。

八坂塔は京都を紹介するテレビや雑誌など、メディアに欠かせないほどの五重塔だ。かつて渡来系氏族の八坂氏が住んだ地とされ、古くは10世紀の『和名類聚抄』に「愛宕郡八坂郷」の地名が記されている。法観寺の寺伝によれば、聖徳太子の創建とされるが、それには豪族八坂氏もなんらかの役割を果たしたものと考えられる。塔の高さは約46メートル、周囲は約6メートル四方。現在の塔は室町時代の再建で、重要文化財に指定されている。

八坂塔の西にある金剛寺は、通称八坂の庚申堂さん。大阪四天王寺、東京浅草の庚申とともに日本三大庚申として信仰を集めている。毎年、初庚申の日にコンニャク焚きがあり、祈祷を受けたコンニャクが諸病に効くとされる。本堂の三猿像も有名だ。境内は若い観光客で賑わっていた。

そして八坂通から産寧坂(三年坂)に続く。おなじみの文の助茶屋や、湯豆腐の奥丹本店へとつながる。一年を通して観光客で賑わうところだが、特にこのような陽気な季節には何の目的などなく歩いて、たまには甘いぜんざいなど食べてみるのもいいかもしれない。一気に疲れがとれて身も心も軽くなりそうだ。ここから清水寺に向かうか、二年坂を歩いて高台寺へ行くもよし。久々に来た産寧坂。散歩気分で清水焼などの五条坂も寄ってみた。春になったばかりというのに初の夏日、心地よい汗をかきながら歩けば、あちこちに春が芽吹いていた。