寄稿119 春を呼ぶ花見小路 / 京を歩く

京を歩く寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

以前にも少し触れたが、古きよき花街の情緒を色濃く漂わす祇園町。四条通に面した赤壁の建物、老舗お茶屋「一力亭」の角を曲がると、石畳に古い町家造りの店が並び景色は一変する。祇園花街の看板通りの花見小路。北は三条通から南は安井北門通まで貫く通り。だが、やはりメインは四条通の喧騒が嘘のように静かな街並みが続く建仁寺までが特別というか、祇園情緒があふれる花街通りだと思う。各家の軒下に見える木組みの駒寄せ、縦に細く長い京格子、二階の窓に吊るされた年中の簾が町家の風情を醸しだしている。

そこには老舗の料理屋やお茶屋が並ぶが、東や西に続く路を少し入れば、おしゃれな洋食店、喫茶店、雑貨店などもあるが、いずれも店構えは町家造りだ。清楚な玄関に吊るされた祇園祭の厄除け粽に目がいってしまうのは私だけだろうか。運がよければ路地からふいにあらわれる舞妓さんの姿にはっとする。祇園情緒あふれるこの通りには多くの観光客が訪れる。

花見小路を下ル(南へ進む)と祇園甲部歌舞練場がある。祇園の芸妓・舞妓による春の風物詩「都をどり」の会場となるところ。国の登録有形文化財にもなっているが、建設から100年以上たち、耐震性が不足していたことを受けて平成28年(2016)に休館し、3年前(2020)から改修工事に入っていたが、ようやく耐震補強の工事を終えて、この春4月には「都をどりは、ヨーイヤサー」と久々に華やかな幕開けとなる。

余談だが、若い頃、もし花街に取材に行くことがあれば、何があろうとも甲部の方から口を聞いてもらうことと教えられた。順番を間違えると、さすが京都、口を聞いてもらえないだけでなく、取材そのものができないことになるらしいと。ま、それは花街だけでなく、物事を頼むときは筋を通すことの大事さと、大人になってわかるようになった。

そして、さらに南へと下がると、建仁寺の北門に行き当たる。建仁寺は臨済宗を広めた栄西禅師によって開かれた京都で最古の禅寺である。広々とした境内に押し黙ったように佇む伽藍群。俵屋宗達の最高傑作「風神雷神図屏風」(複製)が迎えてくれる。なかでも方丈の庭の眺めは訪れた人をやさしく包み込む。白砂に岩や緑苔を配したみごとな枯山水の庭には不思議なおおらかさがある。

法堂の床に仰臥し、天井に描かれた力強い「双龍図」と対峙するのもいい。畳108枚分という巨大な双龍図は日本画の小泉淳氏によるもので、かなり前にEテレビ『日曜美術館』でこの画が出来あがるのを見た記憶がある。実際に観れば誰もが圧倒するのは間違いない。とにかく広々とした境内だけに、一歩踏み入れてみる価値はある。

花見小路を建仁寺の手前で東に折れると、若い人に人気の安井金毘羅宮がある。そこは悪運を断ち切り良縁と結ばれたいと願う人々が訪れる。縁切り、縁結びの碑があり、その岩の表から穴をくぐって縁を切り、次に裏からくぐって良縁を結び、最後に形代を岩に貼って祈願するという。ここから東に行けば、八坂の塔や高台寺と人気スポットが続く。