寄稿者:橋本繁美
一村が感じた奄美の自然を詠んだ俳句が、『日本のゴーギャン 田中一村伝』(編者:南日本新聞社、発行:小学館文庫)に掲載されているので、引用して紹介させていただきます。
写生帖にはまた、いくつかの俳句が書きとめてあった。やはり絵かきの句で、そのまま絵になりそうな俳句もある。奄美の珍しい触れた驚きが、そのまま句になったのもある。あえて俳句といわないまでも、手すさびで写生帖に書き残した句には、一村の奄美の自然をどう感じとっていたのか、画家の目が感じられる。
砂白く 潮は青く 百合香る
砂白く 潮は青く 千鳥啼く
白砂の丘 千鳥たわむれ あざみ咲く
残月に パパイヤ黒し 筬(おさ)の音
鬼へごは 老椎よりも 丈高し
小春日を 小夏と聞けり 奄美島梅花なし 桃花またなし 島の春
鶯も ソテツを侶とす奄美島
黄に赤に もみじ葉散りつ 桜咲く
若葉見えず 杜鵑(ほととぎす)聞かず 鰹食う銀河見ゆ フクロウ聞こゆ ねむの花
宝島 白あじさいの 乱れ咲く
白砂の丘 白馬いななく 白あざみ
千鳥なく サギは降り立つ 牛の背に
花は緑 燃ゆる緋の葉よ 名はクロトン風強し 波は届くか 残月に
熱砂の浜 アダンの写生 吾一人雛鳩を懐(だ)き
眠れず 木菟(みみずく)を聴く
病鳩を懐き
眠らず 木菟を聴く一句一句、一村の思いが込められた句であるに違いない。最後の二句などは、か弱いハトの生命をいとしむ、一村の孤独がひしひしと伝わってくる。
『日本のゴーギャン 田中一村伝』(編者:南日本新聞社、発行:小学館文庫)