7 初めて浴衣を買った話

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

前回の投稿で結局初めての着物を着ずに浴衣ばかりを着ていた話に触れたが、その浴衣についてである。(前回記事:男の着物と私 6

男の着物と私 5 でも記載したが当時勤務していた小売店の店長からある日「着物で接客しよう」と言われた。入社して間もなく、店頭に浴衣の反物が並び始め、浴衣の接客から勉強しようという段階だった。

例のユニフォームの着物を着るのかと思っていたが、「浴衣の接客だから浴衣を着たら?」と言われ、そりゃそうだと快諾。店頭で着る浴衣をどれにしようかと物色しているところに店長から「これはどう?」と提案されたのがストライプに絞られた浴衣だった。

店長は黒、私のはなぜか緑。色違いである。絞りの手間など知らなかった私は単純にスイカみたいとしか思わなかった。しかしながら憧れの大人、店長が言うのだから間違いないな、という勝手な思い込みで決定した。そもそもどんな浴衣であろうと言われたものを買って着るつもりだった。

結局その後、他の浴衣も買ったが、その通称「スイカ」を一番着たし、実は今でも持っているし、たまに着る。デザインとか技法というよりそういう思い出ごと気に入っているのだと思う。ただし生地が良かった(麻)のは確かで、それだけ着たのに「もった」と言うことでもある。

当時はまだ着物小売店で働き始めて1~2か月ほど。何もわからないままだったけれど、よく知っている人の意見を鵜吞みにして正解だった。その後選んだ浴衣は自分で選んだからか、飽きてしまった。

初めて何かを買うときにはなんとなく値段と柄で買うのもよいが、一度詳しい人に聞いてみるのも新しい発見がある。私は珍しい買い物は店員さんに聞いてみることが多い。今になってもデザイン的にスイカは自分で選ばないけれど、だからやっぱりよかったなと心底思う買い物だった。

「スイカ」を着て東尋坊。2013年頃の写真。

買った当時は「浴衣を着たい」よりも、仕事が出来る大人になりたかっただけだった。この浴衣でよく怒られたし、「上田君、スイカみたいやな」と言ってケタケタ笑う先輩に楽しい気分にもなった。

そんな思い出が「スイカ」に宿っている。