投稿者:ウエダテツヤ
羽織紐の直付け。それを知ったのは毎日着物を着るように決めてしばらくたった頃だったと思う。腑に落ちる事を探していた時期 (40「腑に落ちる」探し) だった。
そもそも私にとって羽織紐は「付けておかねばならない物」ぐらいの感覚で大して考えたことがなかった。「石の玉もしくはフサフサが付いている」「マグネットで真ん中から取れると便利」とだけ思っていて紐という感覚はあまり無かった。
帯結びのように結びには装飾的な意味を持つこともあるので、羽織紐についてもそうだろうなとは思っていた。しかし当時結んだ状態で販売されていたものばかりを私が目にしていたからからか、「自分で結ぶもの」という感覚は持っていなかった(ゴムで留める蝶ネクタイのような感覚だった)。そしてこの時、私は石のものしか持っていなかった。カンの部分で羽織紐を外して羽織を着脱する、そういうものだと思っていたので真ん中で外せるマグネットの便利さを実感していたし、何なら「結び目が邪魔そうやな」とか思っていた。
そんな時に「羽織紐を結ぶ」ということを知った。
結ぶってどういうこと?
え?あれ解いていいの?
「結んで売られている物を解いてもよい」という、タブーに触れるようなそれはちょっとした衝撃だった。解くと結べないので解いてはいけない、と思い込んでいたし、解かないものだと思っていた。解けないようになっているとさえ思っていた。(販売時に特殊な結び方のものもあるようだ)言われてみれば、もしも結び目が解けると困る。自分で結べば真ん中で解けるし、心配もない。
けれどわからずやの私はこの時点ではまだ「カンで取り外せばそれでいいんじゃないか」とも思っていたし、面倒臭そうだとまで思っていた。
それを覆したのは何を隠そう、「結ぶ楽しさ」だった。
自分でやってみると初めて角帯を教えてもらった時のような感覚がジワジワきた。結び目のバランスや形。これは楽しいと思ってすぐにお取引先へ羽織紐を頼む。練習には平組の他に二重結びができる長い丸組が欲しかった。カンはいらないぞ!と意気込んで直付けと呼ばれるそれを頼んだけれど「直付けは少ないんですよ」と言われた。特に、長い羽織紐は直付けがなく、なんとか黒は見つけてもらって購入したけれど、その後に探した白は結局カン付きを購入した。
ちなみにどうやら私は結ぶのが楽しかっただけで、ファッション感覚としての好みはこの二重結びとは縁がなかったようだ。購入後しばらくは二重結びの練習をしたけれど、それに満足してからは滅多に長い羽織紐を使わなくなった。
直付けの不便なところは取り替える際の少しの手間である(半衿のそれと比べると大したことはない)。一方でカン(特にSカン)は着脱で取れたり無くしたりする事があるが取り替えは簡単だ。どちらが良いかは人それぞれだろう。フォーマルになると羽織を脱ぐ事もないので、カン付きの方が便利な場合もある。二重結び難しいからね…