投稿者:ウエダテツヤ
2011年。家着物には縁遠かったけれど着物は楽しかった。それは何もない私にとって一つのアイデンティティを手に入れた感覚だった。もちろん他の人と比べて「着物を着ている事業者」という相対的なものを目で見える形にしただけのことでもあったし、着物を着た瞬間からどこかのヒーローみたいに何かの力を手に入れることはないのだけれど、それでも「着物を着る」と「私」の結びつきは大切なものになった。特に自分で決めて実行したことへの満足感は楽しさに直結していた気がする。
急に毎日着物にすると、「なんで着物着てるの?」と聞かれたけれど、そういう時は「着物事業者やし」と、今まで普段着ていなかった癖に当然の如く答えた(笑)。そういう私も「どうして着物なんですか」とこれまでに聞いたことがあったのを心の中では思い出していたのだけれど、そうやって聞かれるたびに「いつか単純にファッションとして捉えられるようになればいいな」と感じた。まだまだ着物姿は少なかったから、着ることで役立てる気もした。
知らないことを知る楽しさもあった。当時既に着物の仕事について10年が経過していたけれど、実生活に基づいた知識ではなかったので、疑問に感じるたびにネットや本、実践してきた人の意見を聞いて自分なりの答えを出していった。そんな過程が楽しかった。
具体的には別の機会に投稿するが、知ることに合わせて様々なものを買い、商品の良し悪しだけでなく、私には向いていないという観点での失敗も沢山あった。事業者だからこそ、そこから学ぶことは沢山あったけれど、一般の人を考えると色々思うことはあった。そういう経験も全て含めて楽しかったと表現できる。
そして当然ながらどこへでも出掛けた。着物姿が増えてきた最近はなぜか逆に「目立ちたくないな」と思うようになったのだけれど、当時はどこへいても目立ったので気にもならなかった。特に着物姿を見かけなかったら「次の機会にはもう一人着物姿がいるといいな」と期待して楽しかった。私が着ることで「私も着物を着よう」と思ってくれる人が一人でもいれば嬉しいなと思っていた。