投稿者:ウエダテツヤ
2010年~2011年だったと思う。私にとって衝撃的な言葉によってそれから当分の間、外出で洋服をほとんど着なくなった。そこに至る話である。
何社か集まって何かをやろうとしたけれど発想がなかった私(前回)。ある日商工会議所に相談に行こうというメンバーの一人に付き添うように、ついていった。
そこで担当者としてご対応いただいたH氏。私達の言うぼんやりした「何かしたい」に、フムフムと物腰柔らかく聞いていたかと思いきや見事に一刀両断され、結局は相談する前にもっと練りなさいというご指摘を賜った。こうもズバッと言ってくれる人は周りにいなかったので私達は衝撃と共に至極納得し、少ししょんぼりして帰路についた。
結局そのメンバーについて商工会議所に相談することはそれ以来なかったのだけれど、「上田さんの会社は商工会議所の会員さんですよね?」というところからH氏に気にかけていただき交流が始まった。
「こんな補助金がありますよ」「こういうセミナーがありますよ」とその度にご提案いただき相談にも乗っていただいた。そんな折だったと思う。ある時帰り際にふと「Hさんは着物着ないのですか?」と聞いた。
「そうですねぇ、着ないですねぇ。」とH氏。そして続けてこう言われた。
「上田さんも着てないじゃないですか」
この一言で私は頭が真っ白になった。流通業でスーツを着ていても誰も何も言わない。けれどこの一言は私がどうあっても着物事業者であり、「そこに携わっているあなたが着ていないものを私が着ているとどうして思うのかしら?」と問われている気がした。
私は私の一番簡単で出来ていないことを指摘された気がして自分に腹が立って収まらなかった。着られるのに着ていない。その指摘は突き刺さった。悔しさしかなかった。
そして思ったのである。「もう洋服きいひんぞ」と。私にとってようやくのスタート地点だった。(13)で記載したが小売店時代にも悔しさからお店で着物を着ていた。その時は結局「着物を着る店員」でありたかっただけだったが、今回は違った。
根底でくすぶっていた「何かしたい」は「着物を着よう」へ見事に変異した。一番簡単にできることに思えた。
H氏の後日談
それから5年ほどたった頃にこの話をご本人にしたのだけれど、言った覚えはなかったようで、純粋に自然と出た言葉だったようだ。だからこそ私に突き刺さったのかなと思ったし、そこから世界が大きく変わった私には感謝しかない。ちなみに現在は退職されて商工会議所にはいらっしゃらないです。