寄稿127 了頓図子(りょうとんのずし) / 京を歩く

京を歩く寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美 編集:枡儀

以前に、膏薬図子を紹介したが、今回は「了頓図子(辻子)」。三条通の室町と新町の間、三条から六角へ抜ける衣棚通に図子がある。この辺りは、戦国時代の茶人・廣野了頓(ひろのりょうとん)の屋敷があったところ。屋敷の南側の表門(六角通)は「将軍御成門」と称され、北側(三条通)が裏門にあったそうだ。了頓が一般人にも邸宅内の通行を許したことから、この通りを了頓図子ともいい、現在も了頓町の地名が残っている。ところで、図子と路地との違いは? 通り抜けられる路が図子。行き止まり(どん突き)になっている路が路地。
 このあたりに、かつて「真砂(まさご)」という料理屋があった。若い頃、友人のデザイン事務所が近くにあった関係で、時々お昼ご飯を食べに行っていた。みごとな庭と落ち着いた和室で、おいしい食事をさせてもらった記憶が残っている。作家でもないのに、こんなところで、ゆったり原稿を書けたらいいな、生意気なことが行くたび脳裏を横切ったものだ。でも、あの店がそんな立派な方の敷地内にあった料理旅館とは知らなかった。だが、残念なことにもう姿はすべて消えて、住宅の家々が建っていた。この小路が了頓図子ということすら知らずに歩いていたのは遠い昔の話。