投稿者:ウエダテツヤ
初めて着物をデザインしたのは2006年、大島紬のデザインを描いたのがはじめだった。なんとも贅沢な経験なのだけれど、これは私が大島紬技術指導センター(今はありません)で後継者育成のための勉強をさせてもらったころに、自分で作る大島紬用に考えたものだった。途中で糸が絡まったりして結局はとても品物にならなかったけれど、それが初めての経験だった。
それから数年してデザインに触れるようになり一部の大島紬やGritterなどのデザインを手掛けた。けれど私はデザイナーではないので、他社のデザインを請け負ったりするような仕事は出来ないし、そのノウハウも持ち合わせていない。美術系の学校も出ていないし、今でも絵を描くことに苦手意識がある。そんな私とデザインについてを少し投稿してみる。
そもそも幼少の頃から図工、美術がとても苦手だった。多くは他人の些細な一言だったりがトリガーだったりするのだろうけれど、私もそれに違わず、いくつかの小さな積み重ねで自分では絵が苦手だと思っていたし今でもそう思っている。
例えばある時の写生大会では描けた人から帰宅しても良いというルールだった。早く帰りたかった私は急いで仕上げて「いいですか?」と聞いたら「(この絵は)良くはないけどなぁ…」と言われ幼心にガックリきたのを覚えている。私は絵の評価ではなく、帰ってもいいかを問うたつもりだった。
鏡を見ながら自画像を描いた。見せると顔のバランスが違うからもう一度書いてみなさいと言われた。自分なりに工夫して書き直し、今度こそはと見せると「本当に自分で描いたのか?」と言われた。自分でも思いの外上手くできたので仕方ないかと思った。
そんな風にして気になるほどではない言葉を小さなほころびが絡め取って、やがてトラウマを形成していった。高校生ぐらいにはすっかり美術が苦手な私が出来上がっていた。
そんな矢先のこと。バイト先で絵を描く先輩に出会った。「書いてみれば?」と言われ「苦手なんです。下手くそで書き方もわかりません」と答えた。すると「そんなこと関係ないから描きたいように描けばいいよ」と言われた。それでもどうしていいものかわからなかったので、描かなかったけれど、それは私にとって衝撃的だった。絵を描くという価値観が大きく変わった瞬間だった。
その言葉が脳裏に焼き付いたまま学生生活を終え、着物小売店で働いた後当社に入社した。その時に初めて着物(大島紬)のデザインというものを目にした。品物を作るために描く。それはいわゆる美術館で目にする絵画とは違う世界のように私には映った。(つづく)