88 不満を捉え形にしよう

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

(つづき)刺激がなくなるまでは着物を知る楽しさや周りの反応、そこから生まれる人との関係に暫く浸り、着物に対してあるべき姿は何かと考えていた。

40 「腑に落ちる」探しでも記載した帯を巻く理論のように自分の落とし所、納得できるメソッドを探し考え続けた。「自由な着こなし」領域まではまだ未達で、まずはそういう道ではない所を進もうとしていた。しかし、様々な人(メーカーや小売は無論、時には事業者でない方も)が既存概念とは異なる切り口で自由と表現できるような着方やコーディネート、商品を提案する環境に、実は楽しませてもらっていてそんな姿に業界の端くれとして有り難さを感じていたし、自覚していなかったけれど羨ましくもあったのだと思う。「着物は自由ですよ」と言いながら自分が一番自由になれなかった。

着物が好きかと問われて考えるように、刺激を見失ってから今あるものだけでは不満だった。その不満を納得しようと無意識に理論を求めたのだけれど、もはやいくら見出して納得しようにも不満がコップにヒタヒタにまで満ちていた。

そんなある日、不満が溢れ、しかし簡単にスイッチを入れるように「根本を変えてみよう」と思い立った。理論的に着物を考える自分に疲れてもいた。誰かの素直な不満を論破したい訳でもなかったし、考えたことを世に訴えたいわけでもなかった。楽しくなかったことをやめて、新しいものを考えることで私の不満解消にチャレンジすることにした。

不満を捉え形にする。それは着物にただ浸っていた私がようやく私として着物と膝を突き合わせた瞬間だった。そうしてTシャツ襦袢が形になっていった。(21 襦袢Tシャツ開発秘話1