寄稿54 京の師走・「紬」がいちばん

京の旬感寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

京の師走

11月25日、四条大橋の東詰めにある京都南座でおこなわれる年末恒例の顔見世興行を前に「まねき上げ」がおこなわれた。「まねき上げ」とは、年に一度の12月興行「顔見世興行」に出演する歌舞伎俳優の名前が書かれた「まねき」と呼ばれる板を劇場の正面に飾る伝統行事。掲げられた54枚の「まねき」は、江戸時代、劇場前を文字や絵を使って飾った宣伝に由来する看板といわれ、上部に庵形が付き、独特の魅力ある書体、勘亭流で俳優の名前と紋が記されている。毎年、南座の顔見世興行ではこの「まねき上げ」が、京都の年末の風物詩にもなっている。南座は阿国歌舞伎の伝統を受け継いだ我が国最古の劇場であり、顔見世は東西の名優を網羅し、豪華な番組が組まれる一大行事といわれている。顔見世興行は12月2日から23日まで。

師走に入り、ますます寒さがきびしくなってきた。12月をなぜ師走と呼ぶのか。師は僧侶のことで、年末の仏事にあっちこっちで僧を迎えたがるので、僧はその忙しさに走り廻るところから出たもので、当初は「師はせ月」というのが訛ってシハスという説がある。また、すべて稲作に関する行事を「為果す」(しはす)月の意から出たもので、日時が「はつも」月だから、「しはつる月」が訛り、「しはす月」になったという説もある。何かとせわしい感じの師走だが、みんなシアワセへとつなぎたいものだ。

「紬」がいちばん

きもの話なら最高にうれしい話だが、なんと女の子の名前。11月30日の京都新聞朝刊で目に止まった記事を読むと、これは明治安田生命保険がおこなった「2021年生まれの子どもの名前人気ランキング」。女の子は「紬」(つむぎ=主な読み方)が初めての1位に輝いた。昨年は8位だったそうだ。男の子は「蓮」(れん)が2年ぶり7度目の首位。同社は新型コロナウイルス感染拡大で「つながり」を連想させる名前が人気になったと分析している。ちなみに、女の子の2位は「陽葵」(ひまわり)、3位は「凛」(りん)、4位が「澪」(みお)、5位が「芽依」(めい)。男の子の2位は「陽翔」(はると)、3位は「蒼」(あおい)と「湊」(みなと)が並び、5位が「樹」(いつき)。名前の読みのランキングでは、漢字の組み合わせが65種類もある「はると」が13年連続でトップ。女の子は「めい」が1位だったそうだ。新しい世代に生まれる、新しい生命の輝き。読むのがなかなか難しいと感じるのは年齢のせいか。なまえ「紬」、本場大島紬に親しみが持ってもらえることを願いたい。