投稿者:ウエダテツヤ
社会人になって着物屋さんで働いたころ、今より細身だった。慣れない一人暮らしを始めて一時はさらに痩せたりして、とにかく基本的にペラリとしていた。そういう私が着物を着ていると、「もっと太らんと」「お腹の肉があった方が着物が似合う」などということを幾度となく言われた。ふむふむそうかとその時は思い、もっと太りたいなぁなんてことを思ったこともあったけれど、今になるとわかったことがある。
食べても太らないと思っていた体重は30歳を越える頃から徐々に増えるようになり、40前の禁煙を機に食事に対する幸福感が倍増した。よくあるパターンそのままに一時は20代と比べて10キロ以上体重が増加した私。獲得したのはもちろん筋肉ではなく贅肉だ。あの時言われたお腹の肉を手に入れたのだけれど、その体型に自分で満足したかというとそうではなかった。残念なことに「着物が似合うようになったなぁ」とはこれっぽっちも思わなかったし、そんな自分が嫌でダイエットもした。
「寸胴のほうが似合うのよ。」主に女物でこれもよく聞いた言葉だったけれど、それもあまり関係ないように思う。補正するしないはあるだろう。けれど体型で似合う似合わないというものではない。どんな体型であれ着こなせる方法を世の着付けを生業とする方はご存じだと思う。寸法と技量である。
だから太りなさいではなく、もっと経験を積みなさいよとあの頃の私は言われていたのだと思う。着物販売員になりたてで、着物姿云々よりも販売員として不足していた経験や力量が丸出しだったのだろう。その方々のイメージする素敵な着物、素敵な店員と、へなちょこな私には大きな隔たりがあったはずだ。
ちなみに体型や経験はともかく、格好良く着るには自分なりのちょっとしたコツを見つけると良い。私の場合は帯を前下がりに、腰や尻にしわを少なく、帯は緩すぎず、きつすぎず、ぐちゃぐちゃぜずに出来るだけ折り畳んで腰で締める。私の体型からだと幅9~9.5センチ程の細めの帯が好み。時計回りに帯を巻き、真ん中よりも少し右よりに結び目を。
この「自分なりに格好良い気がするコツ」というのが大切で、自分が磨かれてその人なりの素敵な着姿になるのかなぁなんて思う。外から見た自分を気にするのもよし、自分の世界に浸りきるのも良し。私自身も未だに着姿について考えを巡らせることは良くあり、その時々で自分なりに着方が少しずつ変わってきている。
体型、着方、寸法。その時その時でいろいろ変えてみるのも楽しい。